映画みたいな恋をして
アキラは私とのドライブを吾郎には話をしていなかった。
それは吾郎との会話から察しがついた。私から言うつもりもなかった。
報告をする義務はないからだ。それぞれが友人同士。
どんな付き合いをしようとそれは個々の自由だ。
なので吾郎と二人で会うこともあった。
映画を観たりお茶をしたり街中を歩いたり。特別なことは何もない。
他愛のない会話をして笑い合って「じゃあ またね」と別れた。


それからしばらくしてSNSでのグループトークはしなくなった。
やりとりはもっぱら個人のアカウントで個々にするようになった。
受験も佳境になり吾郎もアキラも息抜きをするヒマがなくなったのだろう。
二人からの連絡が途絶えた。年末から年始にかけては
センター試験を控えてナーバスになる時期だ。
ありきたりの年賀メッセージだけを送って、こちらから連絡を取るのは
私大の入試が終わってひと段落してからにしよう。そう思っていた矢先だった。
吾郎から「会いたい」とメッセージが入った。節分の前日だった。
しかも22時を回っていた。待ち合わせた場所へと車を飛ばした。


会うや否や「好きなんや」と抱きしめられた。
「もう限界。我慢できひんかった」と耳元で呻くように吐き出した吾郎は私を離すと
正面からじっと顔を見つめて言った。


「真奈 俺とつきおうてくれ」
「いきなり なに?」
「いきなりちゃうで。俺はもうずっと前から真奈が好きや」
気づいてたやろ、と私をまた抱きしめた。

「断ったらアカンで?俺…受験失敗する」
「ずるいなあ、それじゃ断れないし」
「だから断らんといて」


頼む、真奈 と懇願する吾郎を私は抱きしめ返した。


「ちゃんと合格して。そしたら付き合うから」
「もう合格したも同然や。せやから真奈は今から俺のもん」
「そんなの、わからないでしょ。まだ試験終わってないんだし」
「最大の不安要素は・・・アイツに、アキラに先越されることやったんや。
それが解消されたんやから、もう無敵。受験だって何だって負ける気せえへん」


キラキラの欠片がパッと散るような笑顔を見せた吾郎が愛しかった。
でも正直なところ、この時はまだ恋愛の対象として吾郎を好きかどうかはわからなかった。
もしアキラが先に告白してきたとしたら、きっと同じように頷いていただろう。
二人に対する気持ちに優劣などなかった。
友達以上恋人未満。どちらも魅力的でどちらも好きだった。
だから先にアプローチしてきた吾郎の手を取った。
それだけだった。そう、それだけ。思い悩むことも迷いもなかった。
とても自然に彼を受け入れた。
吾郎とアキラ、優劣も上下も大小も本当に全く無かったけれど、
無意識のうちに決めていたのかもしれないと今は思う。



その後、私たちのことを知ったアキラは「そうか」と一言言っただけだった。
特に変わった様子もなく平然としていた。もし先を越されたら、と
心配していた吾郎は拍子抜けしたようで「あっさりしすぎや。物足りひん」とぼやいていたけど
アキラにとって私はその程度の、ただの友人だったということだ。ごもっとも。
至極真っ当で妥当なセン。自分がそれほど魅力的な存在ではないことくらいよくわかっている。
なのに心がさざめき立つのを抑えきれずにいた。聞いてしまったのだ。
すれ違いざまのアキラの小さな呟きを。


「今は・・・アイツに負けておいてやる」

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