映画みたいな恋をして
 あれから3年。アキラはためらいなく、堂々と私を誘惑するようになった。
 あまりにも遠慮がない上に吾郎の前でも全くお構いなしなので
 本気なのか冗談なのかわからないほどだ。


「はいはい。丁重に送らせていただくわ。監督には上手く言ってあげて」
『ったく。オマエも男を見る目が無いな』
「あら。そう?」
『あんまり甘やかすなよ』
「努力するわ」
『真奈』
「ん?」
『あの馬鹿に愛想が尽きたら、俺のところへ来いよ』
「それまで待っててくれるの?」
『たいして時間はかからねぇだろ?』
「それは解らないわよ」
『なら・・・攫ってやろうか?』
「できるかしら?」


『オマエが望むなら・・・すぐにでも』


「わぉ、強烈なコロシ文句ね。かっこいい」
『殺されやしないくせに よく言うぜ』



こんな言葉遊びができるアキラは 得難い異性の友人だ。
今のままのこの距離を大切にしたい。
「何の話をしてる?」と近づいてきた吾郎を見ればすっかり支度が整っていた。
「じゃあまた」と通話を切ると、「車で送るわ」と吾郎を促した。




「あーあ。真奈にお預けくったままだわ、休み間違えるわ、アキラに怒鳴られるわ・・・散々や」




今日何度目かの深いため息をこぼしながら
がっくりと肩を落として助手席でぼやく吾郎を見ていたら
なんだかとても可哀想に思えてきた。
『甘やかすなよ』のアキラの声がリフレインしたけれど・・・




「来週、休みなんでしょ?」
「今日次第やけどなー」
「また泊まりで来れば?映画も付き合うし。何でも言う事きいてあげる」
「うわ!!ホンマに?」
「だから元気だして。練習頑張って」
「よっしゃぁ!」




さっきまでの落ち込みようが嘘のように鼻歌まで歌い出してご機嫌な吾郎に
やっぱりちょっと甘いかな・・・なんて思ったけれど
彼の嬉しそうな横顔を見たらそれもいいかなと思った。



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