それでも僕が憶えているから

とっさにわたしはホタルを追いかけようとして、けれど、部屋を出る寸前で足を止めた。

たぶん今頃はあいつ自身、柄にもないことをした自分にとまどっているだろう。
そんなところに話しかけたら、また意地張って噛みついてくるだろうから。

全身に逆毛を立てた猫みたいなホタルを想像して、わたしは思わずぷっと吹き出した。


……本当に変なやつ。
自分勝手で、非常識で、傍若無人で、はた迷惑なやつ。

でもまあ、しょうがないな。とわたしは肩をすくめながら思った。

何の因果か知らないけれど、うっかり関わっちゃったんだから。

あいつが無事に目的を果たすまで、変なことをしないかそばで見張っていてやろう。


「……またハンバーグでも作ってあげよっかな」

「え? 何?」


首をかしげた千歳に、わたしは「ううん、ひとり言」と笑った。





        ~Chapter.2

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