リリー・ソング


曲が始まる前のステージは、いつも嘘みたいに暗い。だけど何とも言えない熱気を孕んでいる。

観客席を挟んだ向かいのステージでは、Glintishのメンバーが横一列に並んで出番を待っていた。私の出番はその後だ。

朝比奈さんが目線をこちらに流して、口の端を少しだけ上げて私に挨拶をした。
私は小さく手を振り、がんばって、と口パクで言った。
みんなGlintishを見ているし、こっちは映ってないから、誰にもわからない。
朝比奈さんはすっと目を伏せ、マイクを唇に寄せる。カウントが始まる、…5,4,3,…

深く息を吸う音をマイクが拾った。あ、アカペラで始まるんだ、しかもソロの…
ふ、と背後の深夜も顔を上げたのがわかった。

それは、時が止まったようなワンフレーズ。

…歌、上手いーー…


高音で声が伸び、ドッとオケが流れて、キャーッと凄まじい歓声があがる。
他のメンバーの声が加わり、スタイリッシュなダンスが始まった。

…すごい。キラキラのステージだ。

朝比奈さんのソロはもうなかった。
終わってみれば適度なパッケージを施された、なんともない曲だった。
だけど文句なしにカッコいい。すごい。アイドルの技巧を見せつけられた。

後奏が終わるタイミングで、朝比奈さんが光る笑顔で腕を振り、こちらのステージを指し示した。

あ、バトンタッチ。たぶん今のは朝比奈さんのアドリブだ。
私の番が来た。

深夜の作ったサウンドが大音量で放流され、それにクリスタルシュガーを振りかけるような音を、深夜がピアノで鳴らす。

カメラが私に寄る。
その瞬間、私は自分の顔の筋肉をどう動かすべきなのか、はっきりと、完璧に、わかった。

笑顔が弾ける。
剥き出しの脚でポーズを決めて。

ーーこっちへおいで、クリーム 今日はご機嫌ナナメなの? あなたの好きな窓の外はいいお天気よ そうね何でもしてあげるーー


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