リリー・ソング

「なんか、覚醒しましたよね?! リリーさん!!」

楽屋に飛び込んできて、榎木さんがいの一番にそう言った。

「…えっ…と…」
「ネコ耳、イヤだったんじゃないんですか? それとも実はノリノリだったんですか?!」

興奮してる。
私はまだふわふわした気分だった。

「しかもなんですか、あの最後のカメラ目線のネコポーズは! 反則ですよ! 鼻血出るかと思いましたよ!!」
「あの…やり過ぎでは…なかった…?」
「いやぁ、可愛かった! 尋常じゃなく可愛かった! 一夜にして男性ファンをゴッソリ獲得できますよ。いやLiliyにしてはライトな曲だったんで、若干の不安はあったんですけど、心配ないですね。今回も売れますね!」

鼻息荒く、言ってから。

「…何かありました?」

すーっと普段の榎木さんに戻った。
この人もプロなんだ。と、私は思った。プロフェッショナルに仕事をするということを、私は今までわかっていなかったのかもしれない。

「…なんか、魔法にかけられた気分っていうか…」
「というと?」
「うまく言えないけど…本番前に、」

コンコン、というノックの音に顔を向ける前に、ドアが開いた。

「リリー!」

もう一曲出番があるはずなのに、深夜にしては早すぎると思ったら、朝比奈さんだった。
この3時間程度の間に、リリーさん、からリリーちゃん、になって、もう呼び捨てだ。
とはいえ、さっきのステージで距離が縮まったという感覚を共有していることは間違いなかった。

「最高だよ! いい曲だね、"クリーム"! それに可愛い! そこらへんのアイドルなんか敵じゃないよ!」
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