リリー・ソング
思わず叫んだ。
深夜は倒れていた。
キャスター付の椅子があり得ない方向へ転がって、床は破けた楽譜で埋め尽くされ、パソコンの前にあったはずのキーボードがコードに繋がったままデスクからぶら下がっていた。
あまりにも悲惨な光景に私は息を呑んだ。
「深夜、深夜大丈夫?! ねえ!!」
どうしよう。救急車を呼ぶ?
駆け寄ると、青白い顔をして、深夜はうっすら目を開いた。
「…百合…」
意識が混濁している。百合、なんて深夜が私を呼ぶことは、もう久しくなかった。
「深夜、しっかりして。今お水持ってくるから!」
「…ごめん。……できない……」
床に吸い込まれるように椅子から落ちたのが、容易に想像できた。
「頭打ったの?! ねえ!」
「ごめん…」
どうしよう、とまた思って首をめぐらすと、ふとパソコンの画面が目に入った。
作業中の画面だった。今の今まで作っていたんだ。再生ボタンにカーソルを合わせてエンターを押せば、すぐに聴ける。
私は震える指でそれをクリックした。
スピーカーからコンピューターで形成された無機質な、だけど紛れもなく深夜の血が通った音楽が流れ出した。
それは、あまりにも、綺麗で。
綺麗で、優しくて…柔らかくて、満たされるような。
胸を締めつけるように、切ない…
『深夜が、私を迎えに来てくれた時みたいな。そういう気持ちはどう?』
私がそう言ったんだ。
深夜は私が言ったらなんでもする。
まずいスムージーを飲むことだって、クリームみたいな曲を作ることだって、髪を結んだまま仕事に行くことだって。