リリー・ソング
「これは明日載ります。…明日からここにマスコミが相当来るはずです」
たぶん紺のほうがもっと大変なことになる。紺は有名だし、私より遥かにメディアに露出している。大丈夫だろうか。
「リリーさんは、ほとぼりが冷めるまでホテルに泊まってもらうとして…」
「嫌よ。」
考えるより先に言っていた。
は? と榎木さんが目を剥いた。
「それは駄目。ホテルには泊まらない。私は毎日ここに帰ってくる。」
「いや、でもね、避難しないと。初スキャンダルなので、どのくらいマスコミが来るかちょっと未知数で…」
「どんなに来ても絶対駄目。」
「リリーさん、事の重大さをわかってないでしょう。相手が悪いんですよ。朝比奈紺ですよ。世間は大騒ぎですよ。」
「誤解なのよ。ハグしただけ。そう説明すればいいじゃない。」
「何言われるかわかったもんじゃないでしょう!」
「何言われたっていいもの。」
榎木さんが頭を抱えた。
深夜だけでなく、優等生だったはずの私まで手が追えない。気の毒だと思っても、それだけは譲れなかった。
「…リリー、榎木さんの言うとおりにしな。」
深夜が穏やかに、榎木さんの後を継いだ。
「嫌よ。」
私は深夜を睨みつけた。
「絶対に嫌。榎木さんが送ってくれないんだったらタクシーでも電車でも一人で乗る。本気よ。」
「リリー、我儘言うな。榎木さんは最善を尽くそうと…」
「深夜をこの部屋に一人になんて絶対しない!!」
ほとんど絶叫だった。
生まれて初めて、怒鳴るという行為をした。
深夜も榎木さんも意表をつかれて言葉を失い、リビングはしんと静まり返った。
「…わかりました。わかりました…」
榎木さんがお手上げだ、という調子でそう言った。