リリー・ソング

今日もよく晴れている。
しばらくまともに空を見ることも許されないのかしら、なんてことを思いながら、私は窓の外を見上げた。
雲ひとつなかった。

「知ってはいましたけど…リリーさんって実は強情ですよねえ…」

いつも通り私を仕事に送りながら、榎木さんがそうぼやいた。
私は自分が強情だと思ったことはないけれど。

…深夜をあの部屋に、一人で残すことなんてできない。
どんなに我儘と言われても、愚かだと言われても。

最後のラジオの仕事が終わった頃には、すっかり夜になっていた。
外に出たら、見覚えのないセダンが目の前に滑り込んできた。窓が真っ黒だ、と思ったら後部座席のそれがちょっとだけ下がった。

「乗って、早く。」

目元だけ見せてそう言ったのは、紺だった。同時にドアが開く。
私はわけもわからず、とりあえずそれに乗り込んだ。

「すみませんね、榎木さんには連絡してありますから。」

運転席には三枝さんがいた。そう言い終わる前にもう、車を発進させていた。

「いえ…」

どうしたの? と聞いた私と、紺の声が被った。

「ごめんリリー、こんなことになって。スキャンダル、初めてだろ。」
「ああ…」

謝ることないのに、と思った。頷いたら、三枝さんが笑った。

「ああ、って。どうしたもこうしたもないですよ。やっぱりあなた大物ですね。」
「…そういうわけじゃなくて…」

榎木さんは、迂闊な、と言ったけれど。そしてそれはたぶんその通りなのだけど。
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