リリー・ソング
「あの時は、あれ以外の行動は、ありえなかったから。」
私も、紺も。
時を戻せても、やっぱり同じことをするしかない。謝られることなんかじゃない。
してはいけなかったことみたいに言われるのは不本意だった。少なくとも、紺の味方であるはずの人には。
「撮影、うまくいったんでしょ?」
私は隣の紺を見た。紺は目を丸くした。
痩せた頬がもとに戻って、すっかり健康そうで、芸能人らしくなっていた。
あれから、連絡はなかったけど。
私は疑いもしていなかった。
「…うん。」
「それが全てだと思う。」
そう言って運転席を見たら、三枝さんが苦笑していた。
「本当に、この度はうちの紺のせいで申し訳ありません。明日から、多大なご迷惑をおかけすると思います。」
「いえ。本当に何も、お気になさらないで下さい。」
「うちとしては、ノーコメントで通すしかないんですよ。一応FAXは流しますけど。良いお友達として仲良くさせて頂いていると。」
「そうですよね。」
「ただ紺がどうしても直接リリーさんに謝りたいと言うので。」
「そりゃあそうだよ。清純派のリリーに汚点を作った罪は大きい。」
「あなたは自分の汚点も気にして下さい。アイドルのくせに。」
「私って清純派だったの?」
言い争っていた二人が、私の間の抜けた台詞に笑った。
「ありがとう、リリー。俺はリリーに救われてばっかりだな。」
「そんなことない。」
私は驚いて首を振った。そんなわけはない。
救われているのは、私のほうだ。