リリー・ソング
「朝比奈くーん。」
ざわざわした人たちの中から、ひときわ綺麗な女の人が近づいてきて、紺に声をかけた。
「リリーさん紹介してくれるって言ったのに、全然してくれないじゃん。」
「あーすんません。」
紺の相手役をした、有名な女優さんだった。
映画の中より、実物はだいぶ大人っぽく見えた。紺より年上かもしれない。無造作にまとめた髪に、ほとんどすっぴんなのにドレッシーなブラウスをさらりと着ていて、くらくらするほど素敵だった。
「初めまして、じゃないけど…親睦会でお見かけしてたんだけど。真田貴子(さなだたかこ)です。」
「あ、リリーです。映画素晴らしかったです。本当にすごい女優さんで…」
「やだーどうもありがとう! 私もリリーさんの歌大好き!」
紺が演じる少年に体当たりでぶつかって、泣きながらも愛し続けたけなげな女性を演じた人とは思えないくらい、きゃっきゃと明るく笑う人だった。
「友達になりたくて、仲いいって言うから朝比奈くんに頼んでたのに。自分ばっかりなんだもん。」
「え? 友達…」
私は思わずその言葉を拾って繰り返してしまった。
「お? どうした、リリーがハッピーそうだぞ。」
「…私、女友達って初めてで…嬉しくて。」
「マジかー!」
紺は遠慮なく笑い転げた。貴子さんはひどく真面目な顔で、初めての女友達が私で大丈夫? なんて心配している。
「あの...カフェでお茶とかしてみたいです。」
「しようよ! ショッピングとか?」
「したいです。」
「そんなことより、バーティーだろ? もうすぐリリーの誕生日じゃん。」