ばくだん凛ちゃん
「あれ?透先生〜!」

『透先生』と呼ぶ人間なんて紺野の関係者しかいない。
僕はゆっくりと振り返った。

あ、春日さん夫妻。
僕は軽く頭を下げる。

「奥さんはどうされました?」

旦那さんは紺野総合の麻酔科医。
帝王切開の時に何度か会った事がある。
まだ若い。

「体調不良で」

そう言うと奥さんはニヤリと笑っていた。
ご想像の通りです。

「透先生が子供と遊んでいる事に凄く違和感を感じます」

春日先生の奥さんはまあ、酷い事を言う。
確か兄さんの外来で働いていたからあの毒舌を直伝されているのかもしれない。

「僕、これでも一応小児科医です」

その言葉に奥さんは首を横に振って

「そうじゃなくて、透先生が無事に結婚出来て子供も生まれてちゃんとお父さんをしている事に、です」

…何で?

「おいおい、透先生に失礼だぞ」

春日先生が奥さんの腕を引っ張る。

「悪い意味で言ってないわよ」

奥さんが春日先生を小突くと

「透先生は一生涯独身であろうと思われていたから。
無事に結婚されて子供も生まれて幸せそうにベンチに座っている姿を見たら、感無量です」

誉められているのやら貶されているのやら。

「高石先生、すみません」

春日先生が僕に謝るので

「いえいえ、気にしないでください」

と手を振った。



「う〜!」

春日夫妻のベビーカーから声が聞こえる。

春日先生がベビーカーを開けて、赤ちゃんを抱っこするとその子は眩しそうな顔をした。

凛より2週間、早く生まれている男の子だが大体大きさは同じくらい。

凛もアウアウ言って、手を伸ばそうとするので近付けてみると。

二人はお互いの手を触ってビクッとするので親達も思わず微笑んでしまう。

「良い友達が出来て良かったね〜」

と、凛に話し掛けると春日夫妻は僕の姿を見て、微笑んでいた。



きっとこれからの人生、凛は沢山の出逢いをするんだろうな。
それは嬉しい事でもあり、親元から離れていく事でもある。
それを少し寂しいと思うのは親の勝手なんだろうね。

春日夫妻と別れて、日差しも強くなってきたので帰る事にした。

胸に感じる凛の温もりと重み。

僕も人の親になったのだと改めて感じながらゆっくり歩き始めた。
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