ばくだん凛ちゃん
「遅くなってごめん」

病院の帰り、兄さんの家に凛を迎えに行った。

「あ〜!」

凛は僕を見て、笑った。
もうあと2ヶ月もすれば1歳。
段々出来る事も多くなり、そのうち意味ある言葉も出てきそうな感じだな。

「お父さん、お帰り〜!」

桃子さんが凛の手を振る。

「キャアアア!」

凛はますますテンションが上がって、喜んでいる。

「ハルちゃん、どうだった?」

兄さんの問いに僕は頷いて

「家で安静に出来る環境なら退院する事を許可しますって」

「そうか…。
それなら仕方がないね。
透は当分時短なり何なりで家の事も頑張るしかないね」

「すみません」

着任後、すぐにこんな羽目になるとは。
本当に申し訳ない。

「いいよ。
透が色々と目新しい事をするから他の小児科医が喜んでいる。
今までは自分の子供に何かあっても休めなかったから、透がいてくれるだけで安心だって。
男性がそうやって時短を使いながら仕事をしているのを見ると、自分達も万が一の時は不安を抱えなくて良いって言ってたよ」

ただ…

兄さんは深くため息をつく。

「医師にとっては良い方向性だけど、スタッフがね」

僕は頷いた。
兄さんの言いたい事がわかる。
昔からいるスタッフは僕や兄さんの方針に反発している。

「ごめんなさい」

その声の主を慌てて見た。
凛と遊んでくれている桃子さんがため息をつく。

「お父さん、スタッフのやりたい様にさせていたから…そのツケが今になってきたのよね」

兄さんは首を横に振って

「桃ちゃんが謝る必要はないよ。
まあ、僕もそんなに気が長い方でもないのでね。
また近々、病院の闇を清算する事にするよ」

兄さんは目で僕に合図を送ってきた。
桃子さんに気付かれないように頷く。

負の遺産が多すぎる病院だ。

ある程度、健全化するまでに時間が掛かりそうだ。

「さて、凛」

桃子さんに遊んでもらってかなりお疲れの凛を抱っこした。

「帰ろう」

凛は大人しく僕に抱かれている。

家に着く頃には熟睡しているかな。
< 128 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop