ばくだん凛ちゃん

※ 透 ※

病院を出たのは午後9時前。

この時間にここにいるのが懐かしい感じだ。

今日は凛を迎えに行く前に真由ちゃんから連絡があった。
ハルが酷く落ち込んでいるから一度行ってあげて欲しい、と。

凛と離れて淋しいだろうとは前々から思っていたが、一人で行って正解だった。

あんなに泣くなんて…。

ハルが不安定になっているのは僕が悪い。
全ては僕の焦りから。
年齢的にハルには早く子供を産んでもらおうとかそんな事を考えて実行した。
二人目を考える前にハルの体調や精神的な負担をもっとしっかりと考えるべきだった。
ハルの状態が悪ければ二人目を考えなくても良かったのかもしれない。



ハルの病室へ行く前に江坂先生に呼ばれていたので産婦人科病棟へ寄った。

「まあ、6ヶ月に入って安定はしているので退院しても良いとは思います」

江坂先生は僕を見るなり、そう言った。
僕の顔に出ていたんだろうか。

「ただ、奥様は無理をするタイプなので退院の許可が出来ません。
透先生からしっかりと説明して納得させてください」

はい、と言うしかなかった。

「ところで生駒医院はどうですか?」

江坂先生は相変わらず紳士的に接してくれる。
穏やかに微笑んでいた。

「ええ、今回の妻の入院で勤務も変則的になっていますが、周りも協力してくれています」

「それは良かったですね」

江坂先生はウンウン、と頷いて目を細めた。

「透先生がそういう時短とかを使えば、他の人にも良い影響が出るかもしれないですね。
紺野でもそういう流れが出てきたら良いのですが」

…紺野では難しいかも。
あのまま紺野で勤めていたら僕はこんな風に時短とか使えていないだろう。

病院に勤める男性医師でこんな風に出来るのは本当に稀だと思う。

まあ兄さんが制度を整えてくれたから今の僕があるわけだけど。

これが小児科だけの医師一人の病院なら絶対に無理だね。
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