ばくだん凛ちゃん
「今日は来てくれてありがとう」

帰り、駐車場まで真由ちゃんが一緒に来てくれた。

「こちらこそ、ありがとう」

一瞬、冷たい風が僕達の間を吹き抜ける。
そう、これが終わればもうすぐ冬だ。
凛をチャイルドシートに乗せると凛はそのまま眠りについた。
余程疲れたらしい。

それを見た僕と真由ちゃんは思わず微笑む。

「ここへ来るとストレスとか一瞬、和らぐんだ。
真由ちゃんの仲間たちが温かくて優しいからだと思う」

弄られてもまた、来たくなるんだ。
…実際には中々来られないけれど。

「またいつでも来てね。
ここは無理でも、お店に皆いてるし」

真由ちゃんは微笑む。
僕は頷くと車内に入り、エンジンを掛けて真由ちゃんに手を振った。

真由ちゃんも笑って手を振り返してくれる。

ゆっくりとアクセルを踏んだ。

暗くなった辺りの景色が動き出す。

帰るこの瞬間が一番淋しい。

また明日からいつもの日々が始まると思うとウンザリするけれど。
また頑張って皆の姿を見にくるぞ、って思うんだ。

…その楽しさは、高校3年の時に拓海が教えてくれた事だ。

それを思い出すと何とも言えない喪失感と共に胸が苦しくなる。



「う〜!」

急に声が聞こえたので僕はルームミラーで確認すると凛がチャイルドシートの中で動き辛そうに必死に動こうとしていた。

「凛、起きた?」

その瞬間。

「ギャアアアア〜!」

耳が壊れそうなくらいの大音量で泣く。

「わかった、わかったからもうしばらく我慢して」

「うわわわわ〜ん!」

泣きわめく、凛。



本当に君は…。

兄さんの言葉を借りるならば『ばくだん凛ちゃん』だよ。



僕はしばらく凛の大音量を聞きながら運転した。
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