ばくだん凛ちゃん
「先生はどう思います?」

一瞬、視線を外して再び透を見つめた。

「どうって?」

「私が母乳だけでいけると思います?」

透は再び私の目を…目の奥の何かを見つめようとする。
…人の心の中まで読もうとしているの?

「じゃあ、逆に質問です。
お母さんはどうしたいですか?
母乳だけで育てたい?ミルクだけで育てたい?
基本母乳で疲れたときはミルクにしたい?」

…透の目にはきっと魔物が住んでいるんだ。
人の目を捉えて離さない。

「…出来たら母乳がいいです」

無言で透は数回瞬きをする。

「十分、出来ると思いますよ。
もし不安ならまた来月、自費になりますが2カ月の健診に来てください。
そこで体重チェックをしてみましょう。
あと、不安な事や疑問な事もお聞きします」

…本気で言ってるのか、透サン。
私には何も言わないけれど家で身体チェックを何気にしているの、私は知ってるんだからね!

「プッ」

隣から吹き出す声が聞こえた。
看護師さん、大笑い。

「先生、あまりにも他人行儀ですよ。
家で見てあげたらいいじゃないですか」

「…一応型にはまった1カ月健診をしているだけです。
ハルが不安なら家でしますよ、それくらい」

看護師さんのツボにはまったらしい。
笑いながら必死に私に言う。

「奥様、家で透先生に是非見て貰ってくださいね。
…っていうか、母乳でいくかミルクでいくか、話し合いしてなかったんですか?」

「…そんな時間、ありません。
新生児のお世話は中々大変だよ」

透から出た意外な言葉に私は目を丸くする。
いつも余裕綽々としているのに。

「下手をすれば夫婦仲も悪くなる。
よくわかったよ、自分に子供が出来て。
特に僕なんかほとんど家にいないからね。
どれだけハルが辛い思いをしているか…、助けられない自分が悔しい」

「…ですって、奥様」

看護師さんは微笑む。

「家にいるときは透先生をこき使ってくださいね。
それくらいでくたばる先生ではありませんので」

くたばる…。
思わず噴き出しそうになった。

凛がグズグス言い出したので看護師さんから凛を渡して貰った。

「他に何かありますか?」

透のその言葉に私の脳内は切り替わった。

そうだった!

「…高石先生」

私は透を睨んだ。

「江坂先生に何か言われました?」

「何をです?」

透の目が完全に泳いでいる。

「私の1カ月健診は特に異常はありません。
今日からお風呂にも入れますよって言われました。
でもお風呂よりも先に夫婦生活、大丈夫です、どうぞ今日から楽しんでくださいって言われたんだけど」

「あー…そう。良かった」

棒読みだよ、透。
そして私から視線を外した。

「江坂先生のお墨付きなら今日から大丈夫だねー。
今日は早く帰られそうだから楽しみだよ」

まだ棒読み…。

「透!やっぱり何か言ってたのね!!」

開き直るな、透!

愚図る凛を右腕にしっかりと抱いて、左の人差し指で透の額を突いてやった。

透は苦笑いをしながら片手で凛を支えるようにしながら私の左手を押さえた。

「じゃあ、今日の健診はこの辺りで。
…気を付けてお帰りください。
楽しみにしていますよ、今晩」



頭まで火照る。
バカ透。
開き直りすぎだわ。
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