ばくだん凛ちゃん
朝6時。
ふと窓を見ると外が明るくなっていた。

凛を一晩抱っこしていたけれど、いつもの授乳で起こされる辛さはなかった。
今はようやく38度まで熱が下がって、ホッとしている。

若林先生は電話で夕方までに下がらなければ一度受診してください、と仰っていたけれどこの状態なら更に下がっていきそうな感じ。

大人の発熱と違って赤ちゃんは怖い。
黒谷先生や若林先生の電話がなければ夜間に病院へ行っていたと思う。
夫が小児科医でも、子供が病気などになればひょっとして普通の家庭より治療とかしないのではないか、と思う。

きっとその考えは正しい。

たまたま今回、行った病院は若林先生が開業した病院。
その情報は直接若林先生が透に入れてくれていたし、また黒谷先生が若林先生の奥様になる方だったから救われたものの…。
もし違う病院を選んでいたら、私、おかしくなっていたんじゃないかと思う。

『私一人でも大丈夫、どうにか出来る』

結婚前に思っていた事は見事に崩れた。
透が何度となく言っていた

『ハルに負担が掛かる』

本当にその通りだ。
私は医師との結婚を甘く見ていた。

これから先、子供もたくさん病気をしていくのだろうけれど。
一番身近にいる小児科医が一番遠い存在になるとは。
透はそれがわかっていたから、個人病院のかかりつけ医を見つけるように言ったんだと思う。
今の現状では自分が凛にとってそういう存在になれないのがわかっていたんだ。

やっぱり、私がしっかりしないと。
幸い、味方になってくれる先生もいる。
透が無理ならそういう人を頼ればいい。
どうにか乗り切って行こう。


スマホが揺れる音がした。



見ると黒谷先生。

「おはようございます。
夜中はありがとうございました」

出た瞬間、そうお礼を言うと

「いえいえ、その後凛ちゃんはどうですか?
私、今から病院へ向かいますが高石先生に一報入れておいた方がいいですか?」

そんな優しい心遣いがたまらない。
社会人になってから学生時代の友達はもう、殆ど付き合いがない。
まあ、昨年同窓会で再会した真由ちゃんは適当には連絡を取るけれど。
こういう優しさに慣れていない自分がいる。

「いえ、きっと当直明けで体力も辛いと思うので言わないでください。
今日、帰ってきたら報告します。
凛もおかげさまで38度まで熱が下がってきました。
もし、また上がりそうなら若林先生にお世話になります」

「ええ、何かあれば若林に連絡を入れてください。
適切な判断を下せると思います」



本当に心強い味方が出来た。
通話を切ってから思わず顔を両手で覆った。
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