ばくだん凛ちゃん
「ご馳走さまでした」

「またいつでも来てください」

駐車場まで、一家揃って送ってくれた。

「兄さん」

車に乗り込もうとした時。
透が僕を呼んだ。

「どうした?」

「去年の今日の事、覚えてる?」

去年の今日?
3月25日?
僕、何かしていたかな。

「ハルと僕が再会した日」

あ、あの救急外来の日か!

「お前、そういう事はきっちり覚えているんだな」

案外、ロマンチストな透。
それだけ自分の人生で分岐点だったって事だけどな。
僕があの時。
ハルちゃんを診察していたら今、この二人はこんな風に一緒にいなかったかもしれない。

あ、25日って。

「そういえば今日で凛ちゃん、丁度3ヶ月じゃないか」

透とハルちゃんは顔を見合わせて頷いた。
3ヶ月、あっという間だな。

「あ」

透に抱っこされている凛ちゃんが。

「笑ってる」

透とハルちゃんは慌てて凛ちゃんを見た。
両親を見ながらニコニコと笑う凛ちゃん。

「初めて見た!!」

透の嬉しそうな顔。

「私も」

ハルちゃんが頬を触るとますます興奮したように凛ちゃんは笑った。

この子もようやく笑うようになったか。
子供の成長はあっという間。
そういう初めての出来事も一瞬。

「じゃあ、帰るよ」

「お気をつけて」

透が微笑んだ。
ハルちゃんは凛ちゃんの手を挙げて無理やり手を振らせていた。



こういう時、子供っていいな、と思う。
出来たら僕も欲しかったな。
いや、僕に出来ていたら桃ちゃんの両親も僕の両親も目の色を変えて教育に口を挟んできただろう。
それでいい子供なら別に問題はないけれど、僕と桃ちゃんの関係には完全にヒビが入ったな。
透だからそれを拒否できる。
現に両親はハルちゃんの手伝いはするものの、口出しはしてない。
世の中、そんなもんなんだろう。

さて、僕は自分がやらねばならぬ仕事に打ち込むとしますか。
経理はハルちゃんという力強い味方をつけることが出来たしね。
これで凛ちゃんのお食い初めには参加できるぞ。
桃ちゃんに言って何かプレゼントも用意して貰おう。

少しだけ、自分の心の中が明るくなった気がした。
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