ばくだん凛ちゃん
「至先生が院長でも全然問題ないとは思いますが、透先輩の方が経営、向いてるんじゃないですか?」

速人のそんな発言に深い溜め息をつく。

「兄さんも僕も経営なんてやった事がないし、どちらも手腕は一緒くらいだと思うよ」

速人が僕の評価を高く見積もってくれるのは嬉しいけどね。

「僕や兄さんは医師としての責任を全う出来たら良い。
でも、継承とはいえ開業医は違う。
医業プラス経営。
当分は生駒先生が理事長として関わるけれど、あの人、頭の中は金儲けしかない。
だから不採算な小児科がある病院を兄さんに押し付けた。
病院の他にも保育園を作り、病児保育も売りにする。
他に特養まで。
…手を広げすぎだ」

表向きは子供や老人の事を考えているかのような事業展開だけど。
実際は金儲けの事しか考えていない。
そんな事では良い人材も育たない。
企業としてはダメな典型。
病院のスタッフがズタズタなのはそれも一つの原因。

「だから、ハルが必要なんだ。
高校卒業してから零細企業から大企業まで、あらゆる会社で経理をしてきた。
秘書みたいな事もしてきたらしいからね。
その経験を活かしてもらう」

いずれは病院だけではなく、保育園も特養の事も。
投げてくるだろう。
そんな事をすれば兄さんはパンクする。
だから、ハルが必要だ。

「奥さんまで利用するんですか?」

速人の顔が強張る。

「人聞きが悪い。
僕だってね、いつまでもこの病院にはいない。
他の病院に行くのか開業するのかわからないけれど、一番可能性があるのは生駒医院に行く事だ。
だから先に打てる手を打つんだ。
僕が入ってから動いていたら遅い」

僕がこの地元に戻ってきてから、先の人生なんて何となくわかっていた。

いずれは医院を継承する兄さんを助ける事になるんだろうな、とか。

ただ、一生独身でいるつもりだったからハルと再会して、結婚して子供も産まれたのは凄く幸せなハプニングだった。

ハルに手伝って貰おうなんて最初はこれっぽっちも思っていなかったけれど、でも僕には。

いずれはハルの経営的手腕が必要になる。

僕の全てを助けてくれるのはこの世でただ一人。

ハルだけ。
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