ばくだん凛ちゃん
「ではお先に失礼します」

速人が深々と頭を下げる。

「お疲れ様」

午後8時。
これから一人で色々としなければならない。

救急外来へ向かう。

その途中。
白衣の胸ポケットに手を入れた。
最近、お守り代わりに持っているものがある。
黒谷先生がわざわざ台紙を付けて、マスキングテープやら何やらで飾り付けたハルと凛の、写真。

『先生にも心の支えになってくれる人が出来て良かったですね』

そう言って渡してくれた黒谷先生。

まあ、そうですけど。

黒谷先生も、僕は知ってます。
若林先生からの贈り物が、あなたの胸ポケットに収められているのを。

指環、付けたくても付けられないからね。
細いチェーンブレスレットに指環を通して、透明の袋に入れて胸ポケットに入れている。

最初は自分とは合わないと思っていた人が案外、合っていたり。
また自分の知らない所で家族を支えてくれていたり。

こういう縁が有り難いと思うようになったのは自分が歳を取ってきたからかもしれない。



一瞬だけ、写真を見る。
最近、笑うようになった凛。
もうすぐ、お食い初めか。
何だかあっという間に大きくなるな。

本当はもっと一緒にいたい。

でも、出来ない。



そう思うと僕、一体何をしているのかなって思う時がある。

本当にこのままで良いのかな。

また深い闇に陥りそうだ。



胸の内ポケットに写真を入れて、手を当てた。

今晩も頑張らないと、ね。
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