ばくだん凛ちゃん
「ちょっと、もしもししようね〜」

赤ちゃんに語りかけているのがわかる。

「うん、胸の音も大丈夫、股関節も大丈夫ですね。
身長、体重も良い感じで成長しています」

「ありがとうございます!」

嬉しそうなママの声。

そういうのを聞くと私も嬉しい。
思わず微笑む。



「高石さん、凛ちゃんどうぞ」

右端の部屋から看護師さんらしき人が出てきて私を呼んだ。

…透じゃなかった。

ガックリと肩を落として私は中に入った。

若林先生でもなく、初老の女医。

「こんにちは」

そう挨拶しても、挨拶を返して来ない人だった。
こっそり溜め息をついた。

「お願いします」

「じゃあ、こちらにどうぞ」

そう言ったのは看護師さんだった。

凛をベッドに仰向けに寝かせる。

「ギャー!!」

と猛獣のような声を上げて泣き叫ぶ凛。
腹這いにさせても嫌がって号泣。
腹這いなんて練習してもすぐにギブアップする凛。
いつも以上に泣いている。

「凛~、どうしたの?」

思わず声を掛ける。
その瞬間、聞いてしまった。

…舌打ち。

私は医師の顔を見つめた。

「まだ首が完全に座ってないわね」

凛を無気力な目で見つめながら呟く。
そのまま仰向けにして股関節の確認。

「固いわね、関節」

何だろう、この先生。

凛は更に大きな声を上げた。
思わず耳を塞ぐと

「ちょっと、お母さんがそんな事をしてどうするの!」

怒鳴られてビクッ、とする。

「子供、家でちゃんと抱っこしてる?
愛情、注いでる?」

…何言ってるの、この人。

私は呆れて物が言えない。

「腹這いの練習を家に帰ったらしなさい!
いつまで経っても首の力が強くならないわ!」



…透は以前。
家で腹這いの練習を見せてくれた時。

『凛はまだやりたくないんだね〜。
いいよ、凛のペースで」

そう言っていたのに。



「はい!いいですよ〜!次は保健師さんとの育児相談に行ってくださいね〜!」

いきなり、隣の声が大きくなる。

そちらの方に気を取られると

「ちょっと!聞いてるの?」

目の前の先生は延々と何かを言っていたらしいけれど、全く聞いていない。

チラッと看護師さんを見ると気の毒そうな表情で私を見ている。



- ドンドン -

隣のパーテーションが揺れた。
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