ばくだん凛ちゃん
6月。
紫陽花が雨に打たれながらも力強い生命力を見せる時期がやって来た。
連日、雨が降り続く梅雨。

そのせいか、ハルは体調不良を訴える事が増えた。

「あまり調子が悪ければ兄さんに診てもらいなよ」

そうアドバイスするがハルは曖昧な返事をするだけだった。

まあ本人の気が乗らない時はいくら言っても仕方がないけれど。

ただ、僕は普通の体調不良ではないと思っている。
多分…江坂先生の領域かな。
今はまだ確実にわからないから検査薬や婦人科受診は勧めない。

気がつかないフリも中々大変だ。

凛もまだ手が掛かるのに、二人目なんてハルは全く望んでいない。
けれど、無事に出産する事が出来るリミットは個人的にはあると思っている。
勿論、50を過ぎても産むことが出来る人もいるけれど本当に稀だ。
ハルの体力がある間に可能な限り、妊娠、出産に持ち込みたい。



…もし僕がいなくなって。
ハルと凛が遺されて。
更に凛に弟か妹、あと2人くらいいれば僕がいなくても寂しくないかなって。
最近、事あるごとに思う。



だから。

ハルが妊娠していたらそれは僕の強い念なのかもしれない。

再会してから僕の我儘に付き合わせっぱなしで本当に申し訳ないと思う。
せめて生活だけは少しでも楽が出来るようにと僕が働いてどうにかなる事ならガンガン働く。
条件の良い病院があればそちらに行くことも考える。

でも、どうもそんな流れではなくなってきた。

仕事も家庭も。
雁字搦めになってきている。

さて、どうしようかな。

打つ手はあるのかな。



「透先生、お願いします」

PHSが揺れて出ると夜間診療に高熱の子供が運ばれて来たとの事で。
僕は当直室を出る。
今晩も忙しくなりそうだな。
< 93 / 140 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop