ばくだん凛ちゃん
「うん、妊娠の可能性大、だね」

兄さんは検査結果を見て、微笑んだ。

僕はその隣で凛を抱きながら聞く。
僕が口を挟むより兄さんに言ってもらった方がいい。

「前回の生理から考えると婦人科へ行くのは2週間後くらいでもいいかな、と思う。
今の時期は非常に不安定だからね。何が起こってもおかしくないから体調があまりにもおかしいと思ったらすぐに江坂先生を頼ってね」

ハルは俯いて顔を手で押さえた。

「ハル、どうしたの?」

多分、これは嬉し泣きではない。

「…うん、何でもない」

ハルは頑張って笑おうとするが失敗。
凛が腕の中で愚図り始めた。

「…本当に鈍感な弟でごめんなさいね」

兄さんがハルに謝るので少し頭に来る。

「ええっ、ちょっと兄さん、どういう事?」

僕がそういうの、わかってないとでも思ってるの?

「お前は医師なのにそういう気持ちもわからないわけ?
ちょっとは奥さん、労われよ!」

その瞬間、兄さんが僕の肩を思いっきり掴むから

「うぎゃー!!」

凛、大号泣。

兄さんこそ、子どもの気持ち、わかってあげてよ。
そんなに僕を揺らしたら凛は驚くし。

ハルは顔を上げて泣きながらも微笑む。

「ええ?
ハル、大丈夫なの?」

ハルは頷いて手を差し出すので僕も凛を渡す。
凛はやがて穏やかな表情になり、泣き止んだ。

「本当に、お母さんの事をよくわかっているよ、この子」

兄さんはそう言って微笑んだ。



その帰りの車内は無言。
僕もハルも何も話さない。
凛がフニャフニャ言っているのが聞こえるだけ。



そんなに妊娠が嫌だった?

二人目、早すぎた?

ハルにとっては凛だけでも良かった?

もしそうなら、僕を拒否しても良かったのに。

言いたい事、聞きたい事は沢山ある。

でもね。

今、僕が口を開けば。
多分、まともに運転出来なくなる。

だから言わない。
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