大人の初恋
1 カウンターバーにて
「へいっ、マスターオカワリっ‼同じヤツ」

「飲みすぎだよ、サッちゃん。もう止めとき?な?」

 薄暗いショットバーの店内。
 カウンターに突っ伏している私を、馴染みのマスター、リョウさんは呆れ顔で見下ろした。

「あんだってぇ~?商売でしょあんた。
 お金払うんだから、いいじゃないの。サッサと持ってこいっ」

「まいど」

 週前半の火曜とあって、会員制の小さなバーに、お客は私の他に2,3人。

 他の客が静かに飲んでいるのをいいことに、マスターを独り占めしてクダを巻く。


「だって。
 自分が浮気しといてよ?
『サツキってさ、なんだかソッケないんだよな、割り切りすぎてて、可愛げねえ』

 はあ?何様ですか。
 ウワキ男が何をエラソーに…ううっ…」

「どうせサッちゃんさ、
『わかったよ、仕方ないね』
 とかって、格好つけたんでしょ。
 大体さ、こんなとこで僕に言うなら、オトコに直接言えばいいのに」
 
 クリスタルグラスを拭きながら、長髪を後ろに括ったマスターは溜め息をついた。

「らってさーあ、よそに好きな人できたって云うんだから、仕方無いじゃない。
 ワメいて一瞬ヨリ戻しても、遅かれ早かれ……ね。
 キモチはもうアッチに移ってる訳だし」

「それが“割り切りすぎ”っていうのさ…、って。ねえ、聞いてる?」
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