大人の初恋

「『俺のコト、そんなに好きじゃないみたい』っだってさ……そんなことないよぅ……大好きだったんだよぅ…結婚したかったんだよぉ…」

「あ、ダメだ。聞いてねぇな、こりゃ」

 涙ながらに、苦いジントニックを一気飲み、再びカウンターに頭を伏せた私は、酔眼をはたと見開いた。

「あ、ねえねえ。
 でもさ。カレは結局、アッチの娘を選んだ訳だから。
 結果としては私の方がウワキ相手ってこと?信じられない…
ウワーーーン」

 マスターが、“手に負えない” と溜め息をついた時。

 カウンター席の隅から、含み笑いが聞こえた。

「んん?」

 気付いて目を遣ると、やがてそれは、爽快な大笑いへと変わる。

「………」

 ムッとして立ち上がり、私は隣の席に座り込んだ。
「あ、ちょっと…」

 やけ酒に潰れかけた私は、性質(たち)の悪い酔っ払い。
 マスターの制止を振り払い、その男に絡み始めた。

「ちょっとぉ、そこなアナタ?失礼じゃありゃあせんの…
 ミジメな振られオンナがそんなにオカシイの?」
< 2 / 79 >

この作品をシェア

pagetop