大人の初恋
「ふ、ふーん、なのに私とこんなことデキちゃうんだ。高級車のカギまで寄越してさ」

 色っぽい横顔に動揺しつつ、私は妙な皮肉を言った。行きずりのカンケイ…名前も知らない一夜の男に。

「一緒だったんだ。
 君のフラれ文句と、彼女に僕が言われた言葉。
『私のコト、本気じゃないみたい』
 だから最初、気になったんだ」

 彼は独り言のように呟いた。

「へ、へぇ…じゃあ、誘って悪かったわね、片想いの邪魔してさ」

 彼は私に向き直る。

「終わった事さ。
 でも男は…一回好きになった女を何時になっても忘れない……らしいよ?
 複数の想いを同時進行できるもんなんだとさ」

 “悪い友人の戯言だがね”と付け加え、煙草をくわえた。

「ふうん」
 
 ならば私を振った元カレ達もそうなのだろうか。 
 私と全く違う、母性の強いオンナを抱き締めながら、私を思い出す事もあるんだろうか。

 ボンヤリ考えていたら、彼が私に軽くキスをした。

「ん…」
 
 徐々に接合を深くしながら、無意識に首に回した手を、彼はやんわりと外した。

 唇がそっと離れ、濡れた唇が艶やかに光る。

「さて、と。いかなくては」

「休みじゃないの?」
 
 今日は土曜、私は週休2日だけど。

「ああ…生憎ね」

 言いながら彼はもう完璧に身なりを整えていた。
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