大人の初恋
 素肌にローブだけを纏ったセクシーさに怯みながらも、私はベッドのシーツにくるまると、三角座りでプイッとそっぽを向いた。

「どうかした?」
 彼は怪訝そうに首を傾げ、キチンと畳んである己の衣服に目を留める。

「ああ、ありがとう。サスガだね」
 手慣れた褒め方。

「……嘘つき」
「え?」
 
 私は口を尖らせて、サイドテーブルの方へチラッと視線を移した。

 彼が釣られてそちらを見て、“ああ”と得心したように小さく声をあげた。


 私がさっき、足下から拾い上げたのはチェーンのついたマリッジリング。
 ご丁寧にも “with you”の刻印付きだ。

「……フリーだって言ってた癖に」

 紳士的に振る舞いながら、とんだウワキ男じゃないか。しかも恋人ならともかく、奥さん!

「嘘じゃないさ」

「バカにしな……」
 思わず身を乗り出した私に、彼は寂しげに微笑んだ。

「別れたんだ、3年前。『性格の不一致』ってヤツ」

「嘘ばっかり。じゃあなんで指輪なんか持ってるの」

「チェーンをつけてあるだろう?彼女がしてたヤツなのさ。僕の指には入らない」

 極めて穏やかな口調で、彼は淡々と答えた。

「あ……」
 本当だ。
 よく見ると男性の指には小さすぎる。
 
「何でそんなものを?」

 
「彼女から還されて、ね。
 僕の方は未練タラタラなんだよな……」

 天井を見つめてボヤいた彼は、一旦着替えの手を留めた。
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