大人の初恋
彼は空とぼけた。

「そうだっけ?気がつかなかった。
 まあ、過去の話は良いじゃないか」

 クイッと一口でグラスを空け、マスターに指を1本立てた。

「それよりも、これからの話をしよう」

「これから?」


「ああ。そうだ。
 無駄な時間は嫌いだ。付き合わないか?」

「はあ?」

 まあ、ある程度は予想していたが、なんとも単刀直入だ。

 あまりの直球に狼狽える気持ちを隠して、私は鼻で笑って見せる。

「ふうん。色男の監査部長さんは、来てすぐに部下を口説くわけだ」

 私の嫌味には答えずに、彼は逆に質問を投げ掛けた。

「もう次の予定があるの?」
「なくはないわ!
 今は……まだだけど」


「丁度良いと思わないか?互いにフリーで、さして本気になれない二人。仕事の状況も把握できる。
 それに、相性がいいのも確認が出来てるし」

「セフレってことかしら?」

 負けたくない。
 私は眉を僅かにひそめ、際どい表現を使ってみせた。

 リョウちゃんがギョッと顔を上げる。

 が、彼はそれさえ受け流す。

「セックスフレンドは…味気ないね」

 そうきたか。
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