大人の初恋
「…あ、ああ、ゴメンよ。
 あんまりニギヤカだったから、つい聞いてしまった」

 男はいかにも可笑しそうに微笑みながら、私の方に顔を向けた。

 あらら?
 結構、良いオトコ。


 しかし。

 今日の私は、ちょ~っと機嫌が悪いのだ。

「ちょっとアナタ…まあお聞きナサイ」

 困ったような苦笑いを浮かべた彼をガッチリ捕らえ、私はコンコンと身の上話を始めた。
 マスターがホッとした顔で、ボックス席で一人座っていた客の方へ逃げてゆく。


「……ね?あんまりデショ。前も…その前も。付き合ったヒト、みぃ~んな同じ事言って、キッカリ1年で別れるの‼」

「ハハハ…、その度に君は『仕方無い』って諦める訳か」

 男はとても聞き上手。
 相づちは絶妙で、私はすっかりいい調子で喋っていた。

「だぁってよ?ハツ彼の時から『あっちに子供が出来た』…れすよ?仕方無いわって言うホカないでしょう?」

 男はフッと微笑んだ。 

 おお?なんて素敵な……

 口の端を少しだけ上げた渋味のある笑顔は、大人の男性の、包みこむような懐の深さを感じさせた。
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