大人の初恋
 で、次の日。

「うう…しまった」 
 結局どれも似合わずに、その中にあったストールだけを巻いて、私は待ち合わせ場所に急ぐ。

「やあ」
 厚手のコートを着た彼が、ニコヤカに手を振っている。

 特急に乗って1時間。
 高尾の駅で降り、さらにタクシーで向かった先は高台の墓地だった。

 小春日和とはいえ、標高の高いその場所は、都内ファッションの私には少し寒い。ストールだけでもあって良かった。
 
 ブルルと身震いを1つ。すると彼は、

「悪いね、言っておけば良かったのに」
 自分のコートをかけてくれる。

「いいのに…」
 遠慮しながらも嬉しい。彼に抱かれてるみたいだ。
 不埒なコトを考えながら、ブカブカのコートの袖をプラプラさせて、先行く彼に従った。

 彼は1つの墓標の前で立ち止まった。

『成瀬 雪奈』
 
 タクシーに行き先を告げていた時から、おおよそ検討はついていたが。
 私は思わず息を呑んだ。これまで話の中だけのものだったが、現実に見てしまうとツラい。

 彼は宗派の作法を終えると、私に背を向けたままに語った。

「やっとまた、ここに来ることができた」

「お花、買ってきたら良かったですかね」

「そうか…忘れてた。
 考える余裕がなかったよ、何せ3回忌以来だったから」
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