食わずぎらいがなおったら。


席を外してる間に、平内が会計を済ませていた。

お店を出て、うちに向かって歩きながら話す。



「出すよ。お礼だって言ったでしょ」

「いいよ。お礼だったら別の形でして欲しいんだけど」



別の形?

首をかしげて見上げたら、その途端キスされた。唇にふわっとごく軽いキス。

これか。

手を引かれて歩いてく。お祭りの時みたいに。あの時とは事情が違うってわかってるんだけど。

まぁいいか、と思ってる。

酔ってるのかな、私。




「部屋見せてよ」

「え?」

「内緒じゃないんでしょ」

まぁ、そう言ったけど。でもこの流れで部屋にあげるって、どうなのかなぁ。



断る理由も思いつかず、部屋の前まで来てしまった。




鍵を開けると、私より先に平内が玄関にすっと入った。

ちょっと、と言った時にはグイッと家の中に引き入れられ、閉められた玄関ドアに内側から押し付けられていた。




キスされながら、鍵の閉まる音を聞いた。

左手首を掴まれてドアに押し付けられてる。押し返そうとしたのに、まるで無理で、力の差を思い知らされる。

キスはさっきとは違って熱を持ち、舌を絡めてくる。

なんなのもう。




唇が離れた瞬間に、痛い、離して、と言ったら。ごめん、と手首を離して、抱きしめられた。

キスが重なってくる。

「さっきのじゃ足りなかった」

勝手なことを言ってる。



いい?と耳元で低く囁かれて、耳から首筋に舐めるようなキスをされて身体の力が抜けた。

返事を待たず、暗いまま手を引かれて寝室に行き、ベッドに押し倒される。



もっと慣れた感じで優しく抱くのかと思ったのに。1度目は、貪るように激しく攻められた。

果てたあと、ごめん、がっつきすぎた、と謝りながら抱きしめられ、2度目は、やたらに優しく身体中を確かめるように抱かれた。

意識を失いそうになりながら、キスを求めてしがみついたのは、覚えてる。
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