せめて、もう一度だけ
お義母さんの言葉に、その場は一瞬にして凍りついた。


「母さん、でも、俺にとって初めての子どもで・・・」


最初に口を開いたのは、松永くんだった。


「子どもは、今度ご縁があった人と一緒につくればいいじゃない。


美希子さんとは、ご縁がなかったのよ。


諒を大切にしてくれない人とは、家族になれないわ」


「・・・お義母さん、申し訳ありません」


「謝るくらいなら、最初から浮気なんてしないでって言いたいところだけど。


諒とあなたは、相性が合わなかったと思うしかないわよね。


諒のことを少しでも大切に思ってくれているなら、もう二度と諒に会わないで。


諒、離婚届にサインしなさい」



松永くんは、チラッと私を見て、カバンから離婚届を取り出した。


必要事項を記入して、署名捺印をする前。


「美希子、俺は・・・」


と言いかけたけど、何も言わずに黙々と進めた。


お義母さんと遼にサインしてもらって、離婚届は完成した。


紙切れ一枚とか言うけど、手にとってみると少し重みを感じた。



「美希子さん、こちらは慰謝料を払うつもりはないけど、それでいいかしら?」


「はい」


「あと、諒の部屋にまだ荷物あるんでしょう?


諒に着払いで送らせるわ。


では、お元気でね」




諒は、お義母さんにうながされてノロノロと立ち上がり、


「元気な赤ちゃん産めよ」


精一杯の強がりをみせて、帰っていった。




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