せめて、もう一度だけ
お昼休み。


私は今日遅番で、休憩室に入ったら誰もいなかった。


青い紙袋も、今朝と同じ場所においてある。


田辺さんはまだ食べてないんだな、と思いながらお茶を入れて食べ始めた。


テレビでは、リポーターがどこかのレストランでハンバーグを食べている。


そういえば最近、諒と外食してないな。


諒は人混みが嫌いだし、行列ができるような店には行ったことがない。


たまには外で食べたいって、言ってみようかな。


その時、ドアが開いた。


顔を向けると、田辺さんが立っていた。


「おっ、まだいたんだ」


「すみません、もうすぐ終わりますから」


「なんだよ冷たいな、ここにいろよ」


田辺さんはペットボトルのお茶を飲むと、


「いただきます」


と、私が作ったお弁当を食べ始めた。


「唐揚げ、うまっ!」


「そうですか、良かったです」


冷静に言ったつもりだったけど、内心はすごく嬉しかった。


「このピクルスもうまいな、自分で作ってんの?」


「はい」


「ごちそうさま、すげーうまかった」


笑ってる田辺さんを見たら、私もつられて笑ってしまった。


「お粗末さまでした」


お弁当箱を受け取ろうとしたら、田辺さんは、


「洗ってから返す」


と、そのまま紙袋にしまった。


「いいですよ、2個洗うのも3個洗うのも同じですから」


「作ってもらっといて、何もしないのはイヤだから」


田辺さんは譲らない。


「では、今度持ってきてください」


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