せめて、もう一度だけ
今日はパート初日だから、家に帰ったらすぐに揚げられるように、昨日のうちに唐揚げの準備をしておいた。


諒は唐揚げが好きだから、明日のお弁当の分も含めて多めに準備した。


私の分を少し減らせば、田辺さんのお弁当も作れるかも。


ごはんも普段より多く炊いて、常備菜もあるし、なんとかなりそう。


仕事帰りにスーパーに寄りながら、頭のなかでメニューを考えた。



そして翌日。


田辺さんのお弁当も持って会社へ向かった。


掃除をしていたら、


「おはよ」


背後から声がして振り向くと、田辺さんが立っていた。


「おはようございます」


「今日は寒いな」


「そうですね。


あっ、お弁当は青い紙袋に入れて休憩室に置いてありますから、食べてください」


「えっ、作ってきたのか?」


田辺さんはなぜか、キョトンとした顔をしてる。


「昨日頼まれたので」


「半分冗談だったのに本気にするなんて、ミキは変わってんな」


冗談だったんだ。


それを真に受けちゃう私って、やっぱり単純なんだな。


「すみません勝手なことして、もう作ってきませんから」


「まあ、食べてみて決めるかな。


じゃあまた昼にな」


田辺さんは、手をヒラヒラ振りながらトラックに乗ってしまった。


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