せめて、もう一度だけ
その日の朝礼後、私は小宮さんに


「ちょっといい?」


と、会議室に呼ばれた。


なんだろう、私なにかミスしちゃったんだろうか、と心配してたら、小宮さんの話は意外なことだった。


「田辺くんと、つきあってるの?」


「いえいえ、まさか」


どうして、そんなこと聞くんだろう。


まさか、動物園にいたとか。


いやいや、金曜日は小宮さん出社の日だし、そんなわけない。


じゃあなんで・・・?


「田辺さん、女癖悪いってウワサだから、気をつけた方がいいと思って。


今朝のふたりの様子が、もう仲良くなってる感じだったから、ちょっとお節介だけど、ご忠告」


「いえいえ、面接の日に自転車を停める場所を教えてもらって、それからちょっと話すようになっただけですから」


嘘をついたから、少し良心が痛んだけど。


『実は、告白されたんです』なんて、口が避けても言えるはずない。


「そっか、ならいいんだけどね。


ごめんね、引き止めちゃって」


「いえ、ありがとうございました」


小宮さんは、38歳の優しい頼れる先輩。


これから何かあれば、相談するかもしれないけど。


今はまだ、その時じゃない気がしていた。


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