せめて、もう一度だけ
私も、ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。


遼くんに言うべきことじゃないけど、思いきって話すことにした。


「結婚して2年たっても赤ちゃんできなくて、産婦人科へ相談にいったのね。


そしたら、基礎体温測って排卵日を予測して、タイミングを合わせましょうって言われて。


『今日はエッチする日だよ』って朝に伝えて、しばらくは協力的だったんだけど、半年くらいしてから『その気にならない』って断られるようになったんだ。


それから、微妙な距離感みたいなのができちゃって、私も子どもが本当に欲しいのかわからなくなって。


だんだんレスになっていって、普通の会話も減っていって。


最近は、手もつないでないし、キスもしてない」


遼くんは私の話を聞き終わると、考えこんでいるのか、しばらく目を閉じていた。



「それで、ダンナとキスしたいって思う?


それとも、俺とキスしたい?」


唐突な質問に、すぐには答えられなかった。



「答えられるわけ、ないか」


「ごめん、そんな風に比べたことなかったから」


「そっか」


さみしそうな遼くんの横顔をみていたら、愛おしい気持ちがこみあげてきた。


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