せめて、もう一度だけ
退社する前に、もう一度休憩室に寄ってみた。


お弁当はやっぱり、手つかずだった。


遼くん、そんなに怒ってるんだ。


呆然と立ち尽くしていたら、


「ミキ」


と、後ろから声をかけられた。


懐かしく感じるほど、久しぶりの声。


いとおしくて、せつなくて、苦しいくらいに、好きな声。


「・・・遼くん、ごめんね」


「弁当、食べられなかった。


ダンナも同じの食べてるかと思うと、イライラして」


「そんな・・・」


「いろいろ、考えてさ。


ミキは俺と会うときも、結婚指輪外してないよな、とか」


「ごめん、そこまで気づいてなかった」


「俺の背中に手をまわしてても、指輪がはまってるんだもんな」


何も言えなかった。


遼くんの言う通りだから。


「けっこう、ダンナと仲良さそうだったし」


「そんなことない!」


「じゃあ、なんで一緒に買い物なんてしてんだよ!」


「私だって、遼くんに会いたかったよ。


だけど、私には夫がいて、それをお互い承知の上で今の関係になってるんでしょ?」


「結局、ミキはどっちでもいいってことだよな」


「それは違う」


「何が違うんだよ」


「私は、遼くんだけが好き」



こんなに近くにいるのに。


どうしてケンカしてるんだろう。







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