せめて、もう一度だけ
洗濯して、掃除して、買い物して、ごはん作って食べて、お風呂入って、眠って。


みんなが毎日繰り返していること。


そんな、当たり前の生活を、私は遼くんと送りたい。


何年も一緒にいれば、ケンカもするだろうけど。


諒との生活より、ずっと楽しいと思えるんだ。



「私は、遼くんと一緒に暮らしたいだけだよ」


「俺も、ミキを幸せにしたい」


「早く、そういう日がくるといいね」


「俺、意外と気が長いから」


「ほんとかなー」


「信じてないな」


「だって、そういうイメージないから」


「だから『意外と』って言ったろ?」


そこで、お互いに吹き出してしまった。


遼くんは若いし、茶髪だし、少しチャラい見た目だし。


でも、仕事ぶりや私に対する態度を見てたら、根は真面目なんだと思う。


背が高くて、線は細いけど、適度な筋肉で力が強くて。


切れ長の目で見おろされると、ドキドキする。


配送ミスや破損も聞いたことないし、時間にもルーズじゃない。



私を抱きしめる優しい腕も。


たくましい胸も。


少しクセのある髪も。


私よりずっと大きい手も。


「ミキ」って呼ぶ、低い声も。



ぜんぶ、いとおしい。



私の気持ちは走り出して、どんどん加速していった。


これから、急ブレーキをかけなきゃいけないことに、まだ気づいていなかった。












< 54 / 109 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop