せめて、もう一度だけ
「俺、退院の手続きしてくるから」


諒は病室を出ていった。


スマホを探したけど、私の荷物は何も見当たらなかった。


きっと、家に置いたままなんだ。


遼くんに連絡をとりたいけど、何もできなかった。



病院へ運ばれたのはたぶん、金曜の夜で。


今ごろ遼くんは出社して、私のことを聞いてるかもしれない。


諒が何て連絡したのかわからないけど。


事実は変わらなくても、直接会って話したかった。



諒が戻ってきたから、会社へ連絡した内容を聞いてみた。


「え、『妻が貧血とつわりで倒れたので、しばらく休みます』って言ったけど」


「どんな人が電話に出た?」


「たしか、若い男だった。


名前は聞いたけど・・・あっ、『たなべ』って言ってた」



遼くんだ。


よりによって、一番知られたくない人に、最初に知られてしまうなんて。


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