せめて、もう一度だけ
その日泊まるホテルは、雰囲気が落ち着いていて、まわりは森しかない静かな場所にひっそりと建っていた。


部屋に入ると、遼くんは私を抱きしめた。


「早くふたりになりたかった」


いっぱいキスして、ベッドに寝かされた。


遼くんはいつも以上に優しくて、激しかった。


遼くんに抱かれながら、これからのことを考えた。


あと1ヶ月で、仙台へ行くことになる。


遼くんに嘘を重ねたまま、黙って行くことに決めた。


その方が、お互い楽だから。


私に関わるすべての人に迷惑をかけずにすむから。


たった一人、遼くんをのぞいて。



遼くんはきっと、私のことなんか忘れてしまうだろう。


自分のことを好きだと言いながら、夫にも抱かれて身ごもった、いいかげんな女だと思うだろう。


それでいいんだ。


諒以外は誰も知らない土地で、私も遼くんのことを忘れていけばいい。


子どもが産まれれば、それどころじゃなくなるだろうし。



旅行から帰っても、遼くんと私の関係は何も変わらなかった。




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