せめて、もう一度だけ
軽井沢では、定番のアウトレットへ行った。


遼くんに似合う洋服を選ぶのは、本当に楽しくて。


「俺、着せ替え人形になった気分」


とか言いながら、結構楽しそうだった。


秋冬物もならんでいて、遼くんにピッタリなモスグリーンのダウンがあった。


ブランドなのにすごく安かったから、遼くんにすすめた。


「これ着る頃は、クリスマスとか年末だな」


そうつぶやく遼くんに、


「そうだね、楽しみだね」


無難なことしか言えなかった。



このダウンを着ている遼くんと出かけることは、たぶんない。


私には、諒と離婚して、家族や遼くん以外のことを全部断ち切っていく勇気はなかった。


もし、この子が遼くんとの赤ちゃんだったら。


私は迷うことなく、遼くんを選んだと思う。


でも、この子は諒との赤ちゃんで。


遼くんに、私と赤ちゃんと、もろもろのしがらみを全部背負わせることは、できなかった。





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