せめて、もう一度だけ
お弁当を広げ始めた私をジッと見る視線に気づいて顔をあげると、田辺さんはまだそこにいた。


「ミキ、結婚してんだな」


「はい」


結婚指輪、外したことないですから。



見られると食べにくいな、と躊躇していると、


「子どもは何人?」


当然のように聞かれた。


結婚=子どもじゃないのに。


「子ども、いないんですよ」


努めて明るい声で返事をしたつもりだったけど。


「悪い、変なこと聞いて」


謝るくらいなら、聞かないで欲しい。


「田辺さんは、結婚してるんですか?」


少しでも話題を変えたくて、突っこんでみた。


「いや、結婚したことはないけど」


「そうですか」


「今度さ、俺に弁当作ってきてくれよ」


「えっ?」


突然、何を言い出すんだ。


「俺、月金休みだから、明日よろしくー」


「ちょっと、待ってください」


・・・行っちゃった。


どういうつもりなんだろう。


でも私は、家に大きめのお弁当箱あったかな、おかず何にしようかな、と考え始めていた。










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