せめて、もう一度だけ
家のテーブルには、離婚届を置いてきた。


それを見た諒は、慌てて連絡してくるだろう。


でも私は、もう一度遼くんと話したかった。


遼くんが許してくれるなら、すべてを受け入れてくれるなら、仙台へ戻るつもりはなかった。



でも、新幹線に乗って冷静になったら、不安がおしよせてきた。


勢いで飛び出してきちゃったけど、遼くんに拒絶されたら、また諒のもとへ戻れる保証はない。


っていうか、もう諒とやり直せるとは思えない。


そしたら、私は一人でこの子を育てるしかないんだ。


実家の両親は、こんな私と赤ちゃんを受け入れてくれるだろうか。


妊婦で出戻るなんて思ってもいないだろうし、近所や親戚の目も気にするだろう。


だけど、この子は間違いなく私の子どもだ。


私には、産んで育てる責任がある。



遼くんと話して結論が出るまで、スマホの電源を切ることにした。


もうすぐ東京駅。


自分の鼓動が早くなるのを感じた。


今日は私にとって、人生のターニングポイントになるのかもしれない。

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