せめて、もう一度だけ
いろいろ考えながらゆっくり歩いていたけど、とうとう遼くんの部屋の前に着いてしまった。


遼くんの車は駐車場に停まっていたから、たぶん家にいるはず。


ドキドキして震える指で、インターホンを押した。


反応がなかった。


もう一度押したけど、ドアは開かなかった。



もうすぐお昼だから、コンビニでも行ってるのかな。


それとも、ぐっすり眠ってるのかな。


いや、新しい彼女と出かけてるのかもしれない。


ドアスコープから私を見て、居留守を決めこんでいるのかもしれない。



そもそも、黙っていなくなって1ヶ月も放置しておいて、今さらノコノコ現れたって迷惑に決まってる。


やっぱり、来なければよかった。


おとなしく仙台で暮らしていればよかった。


黙っていなくなるなんて非常識なことしたから、罰があたったんだ。



開かないドアを見つめながら、私には待つことしかできなかった。






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