ビター・アンド・スイート
翌朝、私は数年ぶりに買ったパンツスーツに着替え、
薄い化粧とちいさな金色のピアスだけを身につけ
書類が入るバッグと、3センチヒールを持って、1階に降りた。
「いいんじゃないか。」と兄が私を見る。

支店は3箇所、デパートにあって、横浜に2箇所。藤沢に1箇所だ。
東京の老舗の和菓子店には全くかなわないけれど、
大きなデパートのデパ地下に入るには
相応の味と、ブランド力が必要だって、
今、エリアマネージャーをしている、
海野さん(うみのさん)が1階の休憩室でそう力説した。

ウミノさんは40歳。男性既婚。中肉中背で、少しお腹が出てるかな。
「お嬢さん、相変わらずお綺麗ですね。」とお世辞を言ってくれたけど、
「これからはハヅキでお願いします。敬語もいりません。新入社員と思ってください。」と言うと、
「6代目に(おじいちゃんのことだ。)きちんと独り立ちが出来るよう、頼まれています。
和菓子には興味がないって言っていましたけど‥」と私の顔を見るので、
「出来上がっているものを食べるのは好きです。」と言うと、微笑み、
「まずは、和菓子が好きになってください。」と真面目な顔をした。
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