ビター・アンド・スイート
私の小さな引越しの朝、
早い時間にリョウがやって来て
私の両親と祖父母の前でキチンとふたりで並んで挨拶し、
リョウは「お嬢さんを大切にします。」と私の家族に頭を下げた。
そして、私をちょっと抱きしめてから、微笑んで仕事に出かけて行った。

「お母さんも手伝いに行ってもいい?」と母が私の顔を見る。
「鎌倉のお散歩?」と聞くと、
「そうね。」と言うので、
「いいですよ。」と笑うと、
「私も行く。」とヤヨイが言ったので、
「ちゃんと、仕事をして。」と怒った顔をみせると、
「もう、お休みとってるもん。」と笑って言った。

やれやれ。

リョウに母とヤヨイが引っ越しについてくる。と連絡すると、
「もちろんどうぞ。
きっと、ハヅキの住む部屋が気になるんだろう。
ゆっくりしてもらって。」と笑ってくれた。

私の荷物は衣類と着物の箪笥。化粧品くらい。
後は、新しいドレッサーをおばあちゃんが贈ってくれたものが、午後に届く予定だ。


そういえば、この間、仕事をしていたら、
工藤さんがやって来て、
「城田君が、結婚前提のお付き合いをしているって僕に宣言しに来たよ。」
クスクス笑いかけて来た。
「大変、失礼しました。」と赤くなって言うと、
「いいや。かえってスッキリしたよ。どうなってるのかなって気になっていたし。
これで、僕も前に進めます。」とにっこり笑いかけてくれた。
「聞くところによると、三吉屋に一緒に住むって言って、
結婚前提のお付き合いを認めてもらったらしいじゃない。
僕には無理だなあ。」と言って、幸せになって下さい。と微笑んで去って行った。
誰がそんな事を?
と周りを見回すと、石橋さんが、
「海野さんが、驚いた。っていってたから。」と頭を掻いた。
私が機嫌の悪い顔をすると、
「それだけ、城田さんがハヅキさんの事を思ってるってことだなあって思って、つい。」と言うので、
私は少し赤くなって、何も言えずに、うつむいた。

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