巫部凛のパラドックス(旧作)
 異世界なんて所へすっ飛ばされてはや三日目、今日こそは元の世界に戻ってもらわないと俺の精神がやられちまう。とりあえず、これまでの惰性通り制服に着替え学校へと向かい田んぼ道を歩くが、これほどまでに学校までの道のりが遠く感じたことはない。結構歩いた感じなのにまだ半分も来ていない。こりゃ、道が伸びてしまったのだろうか。
「おはよう」
 完全に意気消沈している声に振り向くと、麻衣が俯き加減に歩いていた。
「よう、おはよう。今日は大丈夫なのか? なんかへろへろだぞ」
「うん。大丈夫」
「本当か? 顔が真っ青だぞ」
「最近、変な夢ばっかり見ちゃってさ」
「変な夢?」
「うん。私と蘭は普通なんだけど、巫部さんがの性格が変わっちゃってるの。でね。生徒会長になってるのよ。かなりリアリティーのある世界なんだけど、お部屋で目覚めるってことはきっと夢なんだよね。一体なんだろう」
 現実にあった世界を夢だと思っていたのか、まあ、それも無理は無いよな。おれだってゆきねやサクラの話をきかなければ夢だと思いたいぜ。
「ずいぶんと変な夢だな。まあ、でも夢ってやつは得てしてカオスになるもんって決まってるんだ。気にすることはないんじゃないか」
「そうかな」
 若干うつむき加減の麻衣は言葉少なめに俺の後ろを歩いていた。しかし、今日はどんな素っ頓狂な状況が待ち受けているのだろうか。教室の前で一つ溜息をつき、一気に戸を開くと、
「ちょっと、会長も麻衣も遅いじゃないの! 一体何やってたの!」
 いきなり怒号が聞こえ、声の主を確認しようと視線を動かすと、巫部が両手を腰に宛がい、仁王立ちしていた。
「…………」
 俺と麻衣は顔を見合わせた。ここから見る感じでは、巫部はいつもどおりに戻っているような気がするが。
「凜ちゃん!」
 そういって麻衣は巫部に抱きつき、当の巫部は、
「ちょっ、ちょっとどうしたのよ麻衣」
 突然の出来事に事態が把握できていないようにうろたえているが、かく言う俺も若干のパニック状態で、何がなんだがさっぱりわからん。本当に全てが元に戻ったのだろうか。
「よかった。元に戻ったのね」
 巫部から離れ手を握りながら、瞳に涙を溜めている麻衣。
「ちょっと、何事? 戻ったって何が?」
 巫部は何が起きたか分からないといった表情で、目を丸くさせていた。周りを見渡すと、クラス中の視線が俺たちに集中しており、皆、何事? みたいな表情で注目の的になっていた。
このままでは俺たちに新たな変人レッテルが貼られまくってしまう可能性があるので、ごまかしておかないとな。とりあえず麻衣を巫部から引っぺがし、自席へと誘導するが、今日の巫部はこれまでの巫部だろうか。昨日までは日替わりでトンデモ状況になっていたのだが、今日のあいつはいつもの巫部っぽい。やっと元の世界に戻って来たっていうのか? それともまさか今までのは全部夢だったとか? 色々な事が頭を巡るが、ピンポイントな答えは浮かんで来なかった。
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