恋は理屈じゃない

「ネクタイのプレゼントには“あなたに首ったけ”という意味があるそうだ」

えっ、嘘でしょ?

初めて聞く話に、うろたえる。

たしかに私は速水副社長に“首ったけ”だけれど、こんな形で気持ちが伝わってしまうことだけは絶対に嫌だった。

まだ、お姉ちゃんに未練を抱えている速水副社長に好きだと伝えても、確実にフラれてしまう。だったら、今のように気軽に話せる関係であり続けたい……。

「か、勘違いしないでください! 私はそんな気持ちでネクタイを贈ったわけじゃありませんから!」

必死になる私を、速水副社長はおもしろがる。

「そんなに照れなくてもいいだろ。そうか、鞠花ちゃんは俺に首ったけなのか」

口では速水副社長に敵いそうもない。

「もう、変なこと言うならネクタイを返してください!」

しびれを切らした私は、速水副社長が身に着けている濃紺のネクタイを取り返そうという強硬手段に出た。しかし速水副社長は素早く身をかわす。その結果、私の伸ばした手は虚しく空を切った。

「キャッ!」

このままだと、転んじゃう!

バランスを崩して前のめりになった私は、これから襲ってくる衝撃に備えてきつく目を閉じた。でも、いつまで経っても痛みは襲ってこない。

「おっと」

耳もとで聞こえた声に驚いて目を開けると、自分のお腹に回っている速水副社長の腕が見えた。

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