スノー アンド アプリコット
下剋上

「こんの、クソガキーー!!」

朝の爽やかな空気を罵声がつんざいた。

「6時には起こせっつっただろーがああああ!!」

瞬間、勢い良く枕が顔面にヒットしてきて俺の口からブッ、と不格好な声が飛び出た。

「バカヤローーー!! てめえ、アン! 美形に傷がついたらどーしてくれんだ!!」

床から跳ね起きて、投げつけられた枕をベッドの上に投げ返した。もちろんフルスイングだ。何故って、俺の枕だし、俺のベッドだからだ。ここは俺の部屋だ。

「知らないわよ! 信じらんない、今何時だと思ってんの?!」

言われて俺は時計を見る。6時15分。

「…まだ15分しか経ってねーじゃねーか。」

この程度の寝坊で枕を投げられるなんて理不尽だ。つーか、自分で起きろっ!

「余裕で間に合うだろ!」
「今日は朝礼があんのよ!」
「知らねえよ!」

壁の薄いこのボロアパートで怒鳴り合うのは日常茶飯事で、それが原因なのかは知らないが隣の部屋の住人は去年引っ越して空き部屋だ。苦情も来ない。逆側の隣は言わずもがな、このアンーー杏奈の部屋だから、そちらも今は空だ。
この部屋ばかりが煩い。

「あのクソババアに嫌味言われたらどうしてくれんのよ、もう!」
「だから知らねえって。」

俺は床にあぐらをかきながら、ため息をついた。ベッドを見上げれば杏奈は下着姿で乱れた長い髪をかき上げている。その姿は垂涎ものの光景だ。グラビアなんて目じゃない。
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