スノー アンド アプリコット
二人

ーー馬鹿じゃないの、と杏奈が言って、馬鹿だよなぁ、と俺は笑う。

馬鹿だよなあ、こんなこと言うような男になって。

確かに杏奈に出会わなければ、今頃俺は従順な女とでも付き合って、勉強だけして、数年後には病院の後継ぎとして将来を約束された医者になっていただろう。

こんな、周りのエリートや、両親にとってはもう得体の知れない男になってしまうようなことは絶対になかった。

何故杏奈のことがこんなに好きなんだろう?
自分が全く違う人間になってしまったほどに。

どうかしてる。
言われなくたってわかってるんだ。

だけどどうしても、杏奈が欲しい。

それは自分の中で一番混じりけの無い純度の高い想いで、一度も迷ったり曇ったりしたことはない。
俺は今、お前の傍に居られているから、何ひとつ後悔することができないんだ。

だから、お前が俺の人生を惜しがって泣くことなんか、何も無いんだ。
俺が馬鹿みたいに、お前を好きなだけだから。


一人にしてやれなくてごめんな。




< 71 / 98 >

この作品をシェア

pagetop