蒼の王様、紅の盗賊
 
 
 
 



鮮明に焼き付けられたあの光景。

混乱に逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ人々。
そして床には、動かない人形と化した人々。



豪華に煌めくシャンデリアも。
お祝いの料理も。綺麗な装飾も。

ただ、あの凄惨な広間を彩る飾りでしかなかった。












「────父上....」



シュリは煌めく月夜に、あの日と同じ言葉を囁くように溢す。




あの日に起きたあの事件は、賊による襲撃だった。
金や欲に塗れた薄汚い悪人の私欲を満たすそのためにあの事件は起こった。



シュリが広間に入った時、もう既に賊は城を出た後だったが、飾ってあった宝飾品は、跡形もなく消え、金目になりそうな物はもう何も残ってはいなかった。

父が大切にしていた母の形見の指輪も無くなっていて、残されたのはシュリの中にある哀しみと大好きな尊敬する父を、罪のない人々の命を私利私欲のために奪った賊に対する壮大な憎しみの闇だった。










「.....」




あの事件の後、憎しみに駆られたシュリの命令により放たれた討伐隊により賊は捕まり死罪となった。
だがそれがあの元凶の全てであったとは思えない。

国家を襲撃することを考えた者にすれば詰めが甘すぎるし、その規模も小さい。
捕まえたのは恐らくはその一部に過ぎなくて主犯格や他に多くは逃げ延びて今も何処かで悪を働いているのだろう。


ッ。
シュリの心に降りた憎しみの闇は消えはしないで今も此処にシュリの心に深く刻まれている。

金や欲に塗れた汚らわしい悪が残した大きな傷跡。

消えるわけがない。
消せるわけがない。
そう簡単に、消してはいけない。





"悪は許してはいけないもの"
"倒さなきゃいけないもの"

そんな想いと決意と共に、常に彼の片隅に存在し続ける。




 


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